昨今の不動産事情から墾田永年私財法まで語ります
株式会社Myla(マイラ)の代表取締役を務める石射 正曜(いしい・ただあき)さんは、「流山くらし不動産」というブランド名で、流山市を中心とした東葛エリアの不動産仲介を行っています。
石射さん自身が8年前に家族で流山市へ引っ越してきたことがきっかけで、この地域の魅力をより多くの人に知ってもらいたい、流山市で暮らすことを考えてもらいたいという思いで、不動産事業を始めたそうです。
「流山くらし不動産」の特徴は、地域密着型のサービスと顧客第一主義。
単に物件を紹介するだけでなく、「流山くらしアンバサダー」などの情報メディアを通して、流山での暮らしを具体的にイメージできるような活動をしています。
これは、石射さん自身が流山市に引っ越してきた際に、まちの情報収集に苦労した経験から生まれたサービスです。
これから全3回にわたって石射さんの不動産に対する考え方や、独自の空き家対策などを聞いていきます。
今回の第1回では、「資産(不動産)を持つ人の責任」や「墾田永年私財法」などという言葉まで飛び出しました。
インタビューを通じて、みなさんに石射さんの考える不動産やまちのあり方を知っていただけたら幸いです。
こだわりの「ご提案書」
—石射さんの「流山くらし不動産」には、どんなお問い合わせが多いですか
マンションや店舗物件を探しているという方々からの問い合わせが全体の8割くらいです。あとの2割が家や土地を売却したり、貸したりしたいというご相談です。
流山本町のプロテインカフェがそうだったんですけれど、オーナーさんが「まだ売る気はないけど、自分の古民家を貸したい」というご相談があって、それを流山に個性的なカフェを出店したい方とお繋ぎした事例などがあります。

古民家のたたずまいを残してオープンしたプロテインカフェGOOD NUTRITION PLUS+
—ご相談に来た方にはどう接していますか?
不動産の売却や賃貸を検討したいと相談してくれた方には、まずはフランクにご要望をお聴きして、その上で「ご提案書」をつくってお出ししています。この「ご提案書」についてはとても大事に考えています。売却とか、貸すとか、はたまた民泊にするとか、事業所として活用するとか、想定し得る活用方法を「ご提案書」にまとめさせていただいて、それぞれのメリット・デメリットをご説明させていただいています。
—網羅的に論点を整理するような感じですね
売却ひとつとっても、建屋ごと売るとか、一旦更地にして売るとか、様々な方法とそれに伴う効果があるので、それぞれの行程やシミュレーションをわかりやすくお客様にお出ししています。例えば、更地にするために解体するなら坪あたりどのくらいの費用がかかるとか、万が一の地中埋設物のリスクとか。お客様には、ご自分の資産の幅広い可能性を知っていいただいて、その上で最終的なご判断ができるようにサポートしています。
—そうすると「ご提案書」は流山くらし不動産の特長のひとつですね
いきなり金額的な査定書を出す不動産会社は多いと思いますが、私どもはトータルでお話しさせていただくことを大事にしています。「とにかく売却ありき」などの考え方ではなく、「何が一番得策なのか」をお客さまと一緒に考えていくことを心がけています。そのためには、お客様がなぜ売却を検討しているのかという背景をお聴きすることが重要です。資産運用の手段だとか、家を次世代に引き継ぎたいだとか、そういった目的やニーズをお聴きして、それにかなったより良い回答を探していきたいと思っています。

株式会社Myla(マイラ)は、流山に住んでいる人のリアルな声を届ける地域メディア「くらしアンバサダー」など独自サービスを展開している
「資産を持つ人の責任」
—特にどんな方に問い合わせていただきたいですか
たとえば、物件が空き家のままになってしまっている方です。空き家とか、空き地のままというのは、「ただ存在しているだけ」になってしまって、資産としてコストがかかっている状況だと思います。結果として、かなり大きい金額が維持費として負担になっていると思います。
—空き家や空地の需要というのはいかがですか
空き家や空地を求めている方っていうのは、実はたくさんいます。持ち主が空き家や空地のままにしているなら、ぜひ有効活用していただきたいです。そうすることが「まちの活性化」や「まちのにぎわい」に繋がっていきます。不動産をまちに役立てるというのは、ある意味で資産を持っている方の責任だと思うんです。
—資産を持っている方の責任ですか
自分のものだから空き家を放っておいてもいいというものではなくて、自分の利益にも、まちの利益にもなるような使い方をするというのを資産家の方は考えていいと思います。 それが資産を持っているエスタブリッシュメントの責務と言いますか。フランスの「ノブリス・オブリージュ」のようなイメージです。
—「高貴なる者の責務」ですね
ちょっと大きな話になりますが、日本の地主層は一般化しすぎて、そうした責務を忘れてしまっている気がします。江戸時代や明治時代は、土地を所有していることはかなり特殊なことだった。だから地主は「公」との繋がりを意識して、町の盟主のような存在(「名主」「庄屋」「検断」などといい東西で呼称が異なる)を引き受けて、町全体を仕切ったり、世話を焼いたりを担っていました。土地を所有している責任から、まちの繁栄や治安維持に貢献しようという意識があったと思います。
—単に土地を所有しているだけではなかったんですね
それが戦後に土地の所有権が個人寄りになって、土地を持つことが普通になってしまった。「自分はまちの一部を所有しているんだ」という責任感を持っていないのが、今の日本の土地所有の感覚ではないかと思います。

社名のMyla(マイラ)は、”Make You Life Awesome!”の頭文字。社会のあらゆる路傍の花を見つけ、育て、美しく咲かせたいという石射さんの思いから
土地所有の意識の変化
—土地所有の意識にも変遷があるんですね
個人が土地所有できるのは明治維新からなんですよね。新しい政府ができて、地租改正があった時に、一般庶民に土地の利用権を「地券」というカタチで渡しました。 江戸時代は天皇・朝廷が持っている土地を大名らに耕作権や統治権を認め、さらに大名が家臣に田畑や屋敷を与えてという構造でしたよね。日本の土地というのは、歴史で考えると、実に朝廷や天皇にまで繋がっていくわけです。
—なかなか壮大ですね
これは本当に土地の法律的な解釈の本にも書いてあるんですけど、8世紀の奈良時代の「墾田永年私財法」までさかのぼるんですよね。土地所有の歴史は、「土地の所有を認めるよ」っていうのと、「土地は朝廷・公のものだよね」っていうのを繰り返しています。個人的には、民間人が土地を維持できない状況になったら、何か公の存在に返納してもいいんじゃないかと思ってるくらいなんです。私権の侵害と考える方もいるかもしれませんが、歴史的背景から考えて、個人が土地を管理しきれないならパブリックな管理に戻しましょうというのは、歴史的にもあり得る考え方だと思います。
—土地は所有するなら責任が伴うということですね
現在、流山市とも連携して推進させていただいている『流山・ 空き家を生まないプロジェクト』も含めて、流山くらし不動産のコンセプトの「空き家・空き店舗の利活用」の根底には、そういう公の意識があると思います。不動産をきちんと活用していくことは、まちの賑わいを次の世代に引き継いでいく意味があるんじゃないかと思って、この事業をやらせてもらっています。
インタビューはまだ続きますが、第1回では石射さんの不動産に対する考えが見えました。「不動産を所有するのは、まちの一部を所有するのだからまちの活性化や賑わいに責任を持とう」というものです。
話を聴いていると、石射さんがなぜ空き家対策や古民家再生事業などに熱心に取り組んでいるのか、わかるような気がします。みなさんは不動産を所有するということにどんなお考えをお持ちでしょうか?
なお「流山・空家を生まないプロジェクト」の取組み詳細については、インタビューの第3回で詳しく語っていますので、せひそちらもご覧ください。
流山くらし不動産や株式会社Mylaの取組みをさらに知りたい方は、Mylaの公式インスタグラムをのぞいてみてください。
さて、次回のインタビューでは、不動産売却するときにどんな点に注意すると不動産会社は全力を尽くしてくれるのかという問いに対して、石射さんが不動産会社の人間としてリアルに語っていますので、ぜひご覧ください!